~加宮朱璃(かみや・あかり)の部屋~
さぁ、遠慮なく入って? |
お、おじゃまします…… |
そんなに緊張しなくてもいいのに |
わ、私も緊張してます…… |
はい……落ち着かないです |
……です? |
あの、私はオフでは普通です…… |
地味なんて、そんな…… |
~数時間前都内、某オープンカフェ~
あの……「【主人公】」よね? |
あっ、ジュリ? |
ええ、そうよ♪ |
なんとなく雰囲気で、そうかなって思ったのよ |
あの……人違いでしたら、すみません |
ええ、そうよ? |
はい……よかったです、人違いじゃなくて |
あとはマルタか…… |
そうね……シャノンは見なかった? |
ええ……でも、もしかしたら会ってるのかも |
迷ってるのかしら……いっそ私がツインテールにでも |
あの……実はさっきから何回かすれ違ってる |
今もあそこから遠巻きにこちらを見てるんです…… |
(チラッ……チラッ……) |
気がつかなかったわ……ちょっと呼んでくるわね |
(スタスタ……)
やっぱりそうだったわ……はい、この子がマルタよ! |
あの、マルタこと田村美佳(たむら・みか)といいます |
まぁ、御丁寧にありがとうございます |
シャノンの矢島智子(やじま・ともこ)、高校二年です |
私は加宮朱璃(かみや・あかり)、ジュリよ |
(自己紹介する) |
これで全員ね……本名で呼び合うのも何かムズムズ |
ええ、何だかそちらの方が呼びやすいですし♪ |
あ、はい……それで構いません |
何だか硬いわね、マルタ……まぁいいわ |
~加宮朱璃(かみや・あかり)の部屋~
それでは皆様、朱璃さんからお話は伺ってますので、 |
ここに居る限り、不審な者は近づけさせませんので |
有難う梢さん、急に無理なお願いをしてごめんなさい |
いいえ、朱璃さんがお友だちを家に連れてくるなんて |
(バタン)
……私、本物のメイドさんなんて、初めて見ました |
梢さんは、私の両親が死んでから、ずっと母親代わり |
あ、そうだったんですね…… |
気にしないで、シャノン |
DDさんも一緒に来られれば良かったんですけど…… |
DDは妹さんのPCからログインしないといけない |
あ、マルタはいつも通りのマルタに戻ってね |
FMDをつけて「The World」に行ったら、 |
「The World」へ! |
"『The World:Re-vice age』 |
『Welcome to The World』 |
◆ ◆ ◆
~ネットスラム~
(シュォオオオオオオオオオオオオオオオン……)
アルちゃんやバリゾーさん達はいませんか? |
ニンリルが知ってると思う |
そうね、ニンリルを探しましょう |
ニンリルさんは、どちらに |
まぁ、いつもログインしてるって訳じゃないと |
(ザッ……)
あっ、今そこで音が……誰かいるみたいですよ? |
シャノン、ちょっと待って…… |
えっ……? |
(スッ……)
………… |
あんた達、ニンリルの仲間って感じじゃないわね |
デスイーターなのか! |
…………行け |
了解…… |
なんでネットスラムに、デスイーターが |
詮索は後よ! |
◆ ◆ ◆
………… |
(ザッ……)
ぐぬ、逃げるかー……! |
なぜデスイーターが潜入できた? |
ネットスラムって、誰でも潜入できるものなの!? |
難しいと思うよ…… |
(ザザッ……)
………… |
また来ました……目的は何なんですか!? |
………… |
答えるはずもないかー…… |
◆ ◆ ◆
これ、偵察の規模じゃない…… |
ネットスラムに用事が? |
泣き姫の手掛かりでもあると思ってるのかしら |
イリーガル繋がりで、そう思っても |
(スッ……)
(*´∀`*)<こんな場所で探しモノ? |
何にもないよ、何にもないない…… |
(すたすた……)
な、なに……今の!? |
見た事ないデザイン…… |
あれはこのネットスラムの住人でありんす |
プレイヤーがいるのやら、AIなのやら、詮索もされず |
あの、あなたはニンリルさんと一緒に居た方ですね |
へぇ、梓でありんす……ニンリルさんのところに |
本当? |
その前に……あの不埒な輩どもを片づけてくれなんし |
(ザッ……)
………… |
◆ ◆ ◆
頼りになるお方でありんすね…… |
また罪を作ってしまった…… |
何を言ってるのよ、【主人公】 |
あらまぁ、妬いてるでありんすか……? |
…………はぁ? |
あれ、おっかない…… |
まだ推測でありんすが、何者かが手引きをしてここへの |
バックドアの一種、でありんすなぁ…… |
それが証拠に……ホレ |
(ザァッ……)
………… |
先刻より次々に湧いてくるでありんす…… |
◆ ◆ ◆
これはかなり厄介な状況でありんすね…… |
潜入した輩が、新たなバックドアのゲートを |
大がかり過ぎる…… |
確かにただのPK集団、というわけでは |
ささ、ここが転送ポイントでありんす |
転送先でニンリルさんたちが待ってるんですね |
そうでありんすが、邪魔な輩を近づけるわけには |
(ザザッ……)
………… |
お引き取り願おう! |
ええ、塩をまいてやるわ! |
◆ ◆ ◆
人払いは終わりんしたね? |
みんな準備OK? |
ええ、大丈夫よ |
他のデスイーターさん達も姿はありません! |
おっけーだよー…… |
それでは…… |
(シュイイイイィィン……)
お連れしたでありんす、主さま |
無事だったようだな |
みんな、おかえり…… |
状況は? |
ここも、リアルもあまり良好とはいえないようだな |
犯人はゴーディンじゃないの……? |
情報は集めているが…… |
えー……!? |
あら……DDやバリゾー、それにメルツィアはまだ |
これから回収に行こうというところだ |
デスイーター潜入経路の調査は? |
それについては、問題ない |
……クッ! |
まさか、デスイーターが入り込んでるとは |
…………! |
(キィン!ガキッ!)
数が多いし、いつも以上に本気みたいね |
……その角の力は今、使えないんですか? |
この角の力なんて、コントロールしたことは無いわ |
私、情報屋ですから……フフ♪ |
ああ…… |
(ザッ!)
あっ、【主人公】! |
DD、無事か! |
ええ、無事よ |
こちらの状況も危険ですけど、リアルの方は |
大丈夫よ、そっちに合流できなくて悪かったわね |
まずは、こいつらを倒して一息つきましょ! |
◆ ◆ ◆
それで、どういう状況なの? |
デスイーターを手引きしてる者がいる |
手引き? |
そうでありんす……詳しくはその他の状況も含めて |
ここは一般の冒険者が自由に入れる場所ではない |
だが「裏口」を作り、そこへ潜入者を転送させるという |
どちらにしても、かなり高度な技術とそれなりの設備は |
……そういえば、バリゾーさんはまだ来てないんです? |
まさかバリゾーが……? |
もう一度言うが、手引には高度な技術が必要だ…… |
察し…… |
実はすごい演技派だったりして……ないか |
メルツィアは情報屋だよね……? |
ええ……まぁ、この状況であれば私が疑われても |
私がデスイーターに協力する動機がないですよぉ!? |
メルツィアは安全な所にいるの? |
ああ、グル・カーンのプレイヤーが襲われた件ですか? |
私は彼に襲われるほど恨みは買ってないと |
さすがに状況証拠ばかりで犯人扱いされるのは、 |
情報屋さん…… |
それか、私から情報をあげたことは? |
無いですねぇ……あなたからも、妹さんからも |
ふぅん……じゃあ、もうひとつ |
どうしてDDを使っていたのが私と妹の二人だって |
……皆さんといた時に聞いたんじゃないですか? |
あんたには誰も話してない |
おやぁ? |
冗談じゃないわ、誰にも妹のことなんて話してない! |
いや……誰かさんに、盗み聞きをされている可能性は |
あの泣き姫を追い掛けていた洞窟とか……ね? |
なるほど……その者と同一のプレイヤーというわけか? |
あんたの正体は……ネージュだな! |
……少し楽しい状況だったから、テンションが |
フフ……その通りよ、【主人公】 |
色々と情報を聞き出すだけにしておけば良かったのに、 |
つい、欲を出してしまったわ……フフ |
お前はっ……!! |
せっかくだから、もう少し彼らの相手をしててね? |
(ザザッ……)
………… |
待てっ! |
◆ ◆ ◆
あの糸目の情報屋はどこ!? |
もう一仕事って何だ……? |
人を騙し、弄んで楽しむ奴よ、あいつは |
誘いこまれたような気もするよー…… |
来たわね【主人公】…… |
(シュイイィィィィィン……)
(ザッ……)
【主人公】…… |
グル・カーンを襲ったのはお前だな! |
襲った、というのは違うな…… |
二度と俺の目障りにならぬようにな |
何なの、こいつ…… |
あんた達の狙いは泣き姫の懸賞金じゃなかったの? |
泣き姫は興味深い存在よ……? |
まぁ、懸賞金に関してはもちろん、あらゆる人間を |
お前達の目的は、プレイヤーの領分を超えている…… |
ニンリル…… |
知りたければ、私達まで辿り着いてみなさい…… |
◆ ◆ ◆
フッ、実に喜ばしいぞ……【主人公】 |
グル・カーンをなぜ襲った! |
奴は俺のルールに背いた…… |
俺の獲物を辱めたという事は、この俺に対する |
そのような者に、罰を与えるのは当然だ |
人として大事な何かが壊れてる…… |
お前みたいな奴が、平気で人を傷つけるのよ |
あんたのルールか何か知らないけど、ゲームなら |
俺がつまらないと思えば、そんな物は瑣末な話だ…… |
彼が得た力は実に愉快な成長を続けてるわ……フフッ |
彼を記録したカメラの映像は、もはや彼を影のように |
文字通り「現実と虚像の狭間」にいるみたいだと |
それが良い事か悪い事かは分からないな |
いずれ自分の存在が現実なのか認識できなくなるかも |
ほう……それは一体どんな境地なのか、興味深いな |
冗談だと思っているのではないだろうな |
それは「認知外依存症」の事かしら……フフフ |
……なるほど、ただの情報屋でも愉快なPK集団でも |
「認知外依存症」? |
「認知外依存症」とは、生身で電脳空間に入り込んだ |
次第に自我を失い「個」としての存在を保てなくなり、 |
さらりと変なコト言ったよ…… |
通称「リアルデジタライズ」という現象だが…… |
「認知外依存症」を含め、限られた者しかそれを知る |
お前は、ARISの研究員だな? |
フフ…… |
この「The World」は、素晴らしい実験空間だわ |
MONOREALの目指す理想に最も近い環境に |
情報による意志の管理……人の意思による創造…… |
人の意志と創造の頂点に君臨する「カタリストの王」! |
泣き姫?ゴーディン?それとも…… |
この世界にそんな王はいらない! |
それを欲しない者は、その資格すらないわね、フフッ |
私達の世界を、心を……実験で弄んでいたんですね! |
頭に来たわ……絶対に許さない!! |
出て行け…… |
こんな世界なんて、どうなっても構わないけど…… |
いいわね…… |
さぁゴーディン……その先を見せてくれるわね? |
黙れ……お前達の都合などどうでもいい……! |
行くぞっ!! |
◆ ◆ ◆
フ……フハハッ!! |
世界に愛されていたのは【主人公】…… |
お前が世界を愛さなかっただけだ |
俺が世界を愛する、だと? |
フッ……フハハハハハハハハッ!! |
俺が何かを愛するとでも思っていたのか……? |
どうやら、お前はこの世界の理を聞いたことが |
「“The World”では、全ての者が祝福されている」 |
吐き気がするな…… |
もちろんだとも、ニンリル…… |
それゆえに、我々が新たに革新させる世界の理もまた |
黙れ、道化者……お前らの革新も、世界の祝福も |
そんな甘ったるいものは、全て消えてしまうがいい! |
ヨカロウ……貴様ノ願イハ……聞キ届ケタ…… |
(ゴォオオオオオオオオオオオッ!!)
我ガ叶エテヤロウ……! |
危ない! |
我ハコノ者ノ願イヲ叶エルダケ…… |
(キィイイイイイイイイイイイン!!)
グゥッ!? |
ウァアアアアッ!! |
面白い……実に刺激的だ……! |
ハァ……ハァ……これは、ナニ!? |
(シュウウウゥ……)
消えル……俺……が…… |
イガイ……ニ……ツマランモノダ……ナァ…… |
(シュウウウゥ……)
~ARISラボ~
(ガシャッ)
何か倒れたような音が聞こえたが…… |
不正規領域の調査と言っていたが、 |
主任、何か音がしませんでしたか? |
(…………)
……主任?ノウェル主任? |
~都内某ネットカフェ~
……ん? |
(……コンコンコン)
失礼します、お客様 |
(ガチャ)
あれ?お客さん、離席されてるのか…… |
(カチャカチャ……)
……うん、特に問題ない、か |
それにしても、お客さん帰ってこないな…… |
まぁいいや、失礼します |