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第十章 1話:見極めの幻路

~見慣れぬ場所~

 

なんなの、ここは……?

完全に理解の範疇を振り切ってるよー……!?

……お連れしたでありんす

ここは、世界の吹き溜まり……

(スッ)

「ネットスラム」へようこそ……

ネットスラム……?

そう……ここは「The World」であり、
そうでない狭間の世界

そして、日の当らぬモノたちが行きつく場所
……とでも言っておこうか

あの……どうして私たちをここに?

これ以上アルジェを危険に晒しておく訳にはいかないと
判断したからだよ

なぜ泣き姫から手を引かなかった?

メールで警告してきたのはあなた?

そうだ……
だが、少々回りくどい警告だったのかもしれない

事態がここまで悪化するとは思わなかったのでな……

……いや、その様な傾向の者たちばかりだと見抜けぬ
私にも落ち度があったのかもしれない

厄介事に首を突っ込みたがる、好奇心旺盛なだけの
冒険者だった、とね……

現状が現状だけに何も言い返せないけど……
いや、やっぱり何か言い返したいよ……

私たちがしてきたことが、全て正しいとは言いません
……だけど……

そんなに、悪い事を……していたんでしょうか?

シャノン……

そんな事は分からない

そう、ですよね……私たちの誰もが
何が良いのか、悪いのかなんて分からなかった……

そうだ……だが全ては結果だ

お前達がアルジェと長く共に居たいと願うなら、
泣き姫と関わるべきではなかった

いや……!
みんなを怒っちゃ……だめ!

そこまでこの者達を庇うか……
ではアルジェに免じて、ひとつ試すとしようか

お前達が本当にアルジェと共にいるのに
相応しいものなのかどうかをな……

 

◆ ◆ ◆

 

助けてもらったのは有難いんだけど……
あなた一体、何者なの!?

ただのニンリル……そう言ったと思うが?

アルジェとあなたの関係は?

あの子と私の関係か……ふっ

そんな事をお前達に話したところでどうなるものでも
ないと思うが……これが最後の機会かもしれん、か

せっかくだ、お前達の見極めは今の状況を説明しながら
行うとしようか

見極め……ですか?

そうだ、見極めの結果次第ではもう二度と
アルジェと会えぬ事になる、と心得てもらいたい

横暴……

別に見極めでも何でもしてもらえば良いじゃない?

見極めなんてムダ

ええ、そうね

見極めるまでもなく、アルジェはあんた達と居て
良かったに決まってる……

そうじゃなきゃ、この子は欲にまみれた賞金稼ぎや
PKたちの道具になってとっくに壊されてたわ

DDがデレた……

う、る、さ、い!

……その女が何者で、何を見てきたのか知らないけど
言ってる事が気に食わないだけよ

フ、何を言うかと思えば……

君が一番アルジェに無理をさせている元凶だという
ことに気づいていないだろう、DD

ちょっと……それはどういう意味よ

それも含めて、すべて教えてあげよう……
茜、彼らを「あの場所」へ招待しておあげ

……承知したでありんす

ちょっと「あの場所」ってどこよ!
また訳のわからないところに飛ばす気!?

あ、あの!アルちゃんは……

心配することはありんせん……
この梓と雫がお守りしんす

あっちと雫に任せるでありんす

お友だちの皆さんも一緒にお守りしんす……

な、なんか良い気分……へへ♪

ここはなかなか興味深い場所ですから、飽きずに
済みそうですねぇ……フフフ

みんな……大丈夫……
アルジェも、大丈夫……

しっかり見極めてもらおう

そうよ、やましいところなんか
どこにも無いんだからね!

転送エリア、座標、共に固定……転送開始

(シュォオオオオオオオオオオオオオオオン……)

行ってしまいましたか……フフフ
しかし、伝説の「ネットスラム」へ招待されるとは……

本当に、興味深いわね……フフ

~光の奔る空間~

 

さぁ、到着だ

ふわぁ……
なに、ここ……

ようこそ「認知外迷宮」へ……

さぁ、さっそくで悪いがここの魔物は手強いぞ
招かれざる客は我々だ、奮闘を祈るよ

 

◆ ◆ ◆

 

こんな訳も分からない場所で戦うのが、見極め?
拍子抜けね

ここは「The World」から隔離された、システム領域に
近い領域だ……

そのような場所にいる君たちは、異物……
つまり、この「The World」のバグの様なものだ

バグ退治と称して抹消する?

ここで抹消されれば、二度と「The World」の日を
浴びる事は出来なくなると心がけたまえ……

ひとつ伝えておくが、私は特別ゆえ抹消されるという
ことはない……

ずるい……
まさかチート行為……?

一般の冒険者では不可能な行為、という意味ならそうだ
だが、元々私はここの管理をする立場の者でな

……いや、正確には「だった」だが

ええっと、つまりあなたはCC社の……?

そう「The World」を開発、運営するCC社、その
セキュリティ部門のエンジニア……それがかつての私だ

過去形って事は、今は違うってこと?
クビになったの?

辞めたのだよ、失礼なお嬢さん……

ほら次の刺客だ、相手をしたまえ

 

◆ ◆ ◆

 

それで、CC社のセキュリティ部門を辞めたあなたが
なぜここで偉そうにしているの?

偉ぶっているつもりはないがね
なぜ私がここにいると思う?

アルジェと関係が?

そう……私がこの世界に遺した最後の仕事の結果は
この目で見届けなければなるまい

しかし想定とは違う結果になりつつあるのは、
極めて遺憾といえるが……

アルちゃんは、あなたが……
その、生みの親ということで良いんでしょうか?

半分正しく、半分は違うといえるな……

私が創ったのは「モノケロス」というセキュリティ
システムだ……皆は「銀の一角獣」と呼んでいたがな

そしてそれは、これまで「The World」に発生した、
多くのAIを参考に試作したものだった

発生した……AI……

そう……とある「女神の祝福」によりこの世界が
生みだした、自浄本能といえるだろうな

KIEEEEEEEE……

じゃあ、私達を襲うこの魔物はなぜいるの?

フッ……この魔物の存在もまた、あるべき世界の一部だ
それと戦う冒険者も同じくな……そう思わぬか?

住人同士のトラブルは、自分達で解決しろってことね!

 

◆ ◆ ◆

 

世界が生み出した自浄本能って……
ウィルスを勝手に駆除したりするってこと……?

そうだ……それは時に世界の記憶に刻まれた
「英雄」の姿を模して顕現すると云われている

さながら世界の守護者の幻影のようにな……
お前達も遭遇したことがあるかもしれぬが

あるかもしれない

頻繁に出現が確認されるのは、女神の信頼も厚いと
みえる、伝説の英雄「カイト」を模した者だろう

その後「フィアナの末裔」や彼らの仲間達、そして
「碑文使い」……いや、この名は知られておらぬか

「世界」が刷新されるたびにその防衛本能も成長し、
新たな姿を得て顕現し、独自の判断で浄化を務める……

「The World」の奇跡が生み出す、実に素晴らしい
システムだ……

この世界にそんなものが存在するなんてね……

昔だったら信じる事は難しかったと思いますけど
アルちゃんと出会った今なら、納得できます

……さぁ、まだ攻勢因子は存在するぞ?

 

◆ ◆ ◆

 

でも、そんな奇跡的なシステムを、参考にしたり、
マネしたりできるものなの~……?

全てを模するのは不可能だ……「The World」の
生みの親、ハロルド・ヒューイックでもない限りはな

故に、私はその基本思想の一部のみを模しつつ、
シンプルな機能に留めてデザインした……

それが「銀の一角獣」?

そう「銀の一角獣」……正式な計画名は
自律型セキュリティシステム「モノケロス」だ

だが私は個人的に、その銀に輝く美しいユニコーンに
別の名前を与えていた……

銀を意味する言葉の「アルジェ」とね……

だが、アルジェは恐らくその名前以外の事は記憶して
いないようだな……あの少女の姿になってからは

セキュリティシステムの機能を持っていたから
本能的に変な魔物を消したりしてたのか……

そう、本能的にこの世界を汚す存在を駆逐するように
行動してしまうのだ……あの子が危険な状態にあっても

危険な状態って食べ過ぎたり、無理をしている時の
ようなことですか……?

……分かっていないようだな
今のアルジェには、重要な機能が欠けてしまっている

……まさか

ようやく気付いたようだな?
君が奪ってしまったのだ、DD

不浄なデータを浄化する、力の源である「銀の角」をね

そんな……私は……
わ、私はこれを好きで奪ったわけじゃない!

DD、また敵が来たわ!
話は後よ!

 

◆ ◆ ◆

 

……もう一度言うわ
私はこの角を奪った憶えなんか無い

こんなもの、返せるものなら
すぐにでも返したいくらいよ

奪った憶えは無くとも、「欲した」のであろう?
「泣き姫」に勝つための「力」を……

えっ……!?

あの時、何が起きたかなんて

そうだろうな、君達の誰も分からないだろう
それを責めはするまい……

だが、あの「泣き姫」と初めて相見えた戦い……
君たちがあの時、あの場所で何かを「願った」……

その結果、アルジェは姿を少女に変え、
DD、君はアルジェの角を手に入れた……

そんな……私は何も……!
泣き姫を追えば、妹に繋がる……ただそれだけを……

待って、また敵よDD!

 

◆ ◆ ◆

 

【主人公】……
君もまたあの時何かを願い、手に入れたであろう?

その燃えるように輝く瞳……「王の瞳」を

「王の瞳」!?

そうだ
「泣き姫」の力にも似た、その最も強き力をね

泣き姫の力……ですって!?

やっぱり……
そんな気はしてたんだ……

泣き姫の瞳が光った時、【主人公】の
目も共鳴するみたいに光ってたみたいだった……

【主人公】、君は何を欲した?
あの時、何を願った?

分からない

ならば、無意識だったのかもしれないな
だが君は何かを願った……何かを欲したはずなのだ

じゃあ、アルちゃんはどうして女の子の姿に
なったんですか……?

……私にも分からない、だから知りたいのだ
見極めたいのだ

あの時、誰が何を願ったのかを……

さっきから、願ったとか欲したとか……
それに何の意味があるっていうの?

「The World」では不思議な事が起きるかもしれない
だけど、やっぱりゲームはゲームでしょ?

「The World」は、ただのゲームではない
……決してな

KIEEEEEEEE……

現れた魔物を倒していく……そこだけを見るなら、
まだゲームの範疇を超えてないけど……

 

◆ ◆ ◆

 

「The World」に不思議なものが生まれたとしても
ゲームの中の話だから納得できなくはない……

でもリアルの私たちの「願い」が、この世界に
何の関係があるっていうの?

まさしく、それこそが今この「世界」に起きている
イリーガルな現象のひとつだ……

願いを「The World」が実現化する……?

そうだ……君達の友人の彼もまた
その力で姿を変えた

力を欲して、あの姿に……

だが、このイリーガルな現象が起きる原因に
なったものは、ある程度分かっている

えっ?

「The World」の開発運営を手掛けるCC社が
MONOREAL社の買収を受け、体制変更があったが……

そのMONOREAL社の息がかかった研究チームが、
「The World」を使って実験を行っているらしい

その研究チームの名は……「ARIS(アリス)」

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