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第九章 4話:虎の威を奪う

~都内某所ネットカフェ~

 

なんだ、こいつは?
妙なイベントだな……

「なんだか妙に強い敵が暴れてるってよ」

「泣き姫じゃねぇけど、似たような力を使うらしい」

今、まだ暴れてるってのか?
だとしたら、そいつを倒せば一気に名を上げられるな

“グル・カーン”とその傭兵団の名をよ……!

何だと?
もうその魔物は倒されたって言うのか!

ええ、たしか例の【主人公】達が
倒したって話らしいですよ、ついさっきの話だけど

またあいつか、チッ……
いや、ますます手元に置いておきたくなった

そう簡単に仲間になるとは思えないですけどね、俺は

仲間にならずとも、敵に回らなければ良い
あわよくば、利用できるならしてやるだけだ

ふーん、それでどうするんです?

暴れていた妙な魔物とやらが気になるじゃねぇか……
様子見ついでに顔を出しておくか

 

◆ ◆ ◆

 

……で、何がどうなってんのか教えやがれ

こっちも色々聞きたい

オレもあまり覚えてねぇんだけどよ……

少しずつでもいいわ、あんたが覚えてることを
話してもらえる?

オレが覚えてるのは……あの薬を飲んだところ
くらいまで、だな……

薬?
たしかに暴れ始める前に何か飲んでいたわね……

念のため言っておくけど、薬を飲んだのはこのバリゾー
という「キャラクター」でしょ?

その「プレイヤー」が意識不明になったり、記憶が
飛ぶほど暴走したりするなんて変じゃない!?

私も似たような目に遭ってるから
同意できない

現実と虚構の境界なんて、この“The World”では
大した意味を持たないのかもしれない……

 

◆ ◆ ◆

 

その薬とやらは、どこで手に入れたの?

あぁ、そいつは情報屋の姉ちゃんに聞いたんだ

強くなれるっていう噂の薬が、裏取引されてる
場所をな

情報屋って、メルツィア?

おぉ、お前もたしか会った事あんだろ?
そのメルツィアが教えてくれたんだよ

噂が本当かどうか、調べて欲しいってな

ふーん……

とにかく、オレは情報屋の姉ちゃんに聞いた場所で
見つけた薬を飲んだだけだって!

うーん、それだけなのかしら……?

そんだけ……だろ?

 

◆ ◆ ◆

 

そもそもあんた、なんでその薬を飲んだの?

あ?
そりゃあ……

たしか、仲間に裏切られてたよね

……あぁ
思い出したくもねぇが、そうだったな……!

オレに力があったら、裏切られなかった……
オレに力がなかったから、裏切られた……!

(ゴゴゴゴ……)

ちょ、落ち着いてバリバリ君ー……!?

力が……あれば!

……ダメ、だよ

(なでなで)

あ、う……!?
オレは、今……なんか……くそっ!

何か、まだくすぶってるものがありそうね
やれやれだわ……

 

◆ ◆ ◆

 

くっそぉ!
どうなっちまったっていうんだ、オレは!?

落ちついた方がいい

これが落ち着いていられるかよ……!

りらぁーっくす……

くっ……

あ、誰か来たよー……
やな予感しかしない……

……おい、この辺りで妙な魔物が暴れまくってた
らしいんだが、知らないか?

はぁ!?だれが魔物だっ!!

落ち着きなって!

人の事を魔物扱いされて、黙ってられるか!

誰もあんたの事なんて言ってないでしょうに……
あんたはしばらく、休んでなさい!

う……

やっぱりお前、都市解放傭兵団の
【主人公】じゃないか!

ちょうど良かったぜ、お前達の事も探してたのさ

あの、私たちに何か……?

(ザッ)

うちの大将がお前らに用事があるってさ
ちょっと来てもらおうか

大将……?

あぁ、お前も知ってるだろ?
グル・カーンさんだよ

相変わらず、無礼な連中ばっかりみたいね……

まぁ素直に来てくれないっていうなら
腕ずくって話だ!

ヤナ予感、大当たりだよー……

 

◆ ◆ ◆

 

さすが、グル・カーンさんが一目置くだけの事は
あるじゃないか、へへ……

分かったのなら帰ってよ

そうはいかないんだよなぁ……

とにかくあんたらには大将に会ってもらうぜ!

 

◆ ◆ ◆

 

私たち、あのグル・カーンに気に入られ過ぎじゃない?
特に【主人公】は、ね

趣味じゃないけど

それは……まぁ、そうでしょ

そういう意味でしたら、申し訳ありませんが、
私もちょっと……

お友達から断る……(キリッ)

相当、嫌われたもんね……
自業自得でしょうけど

何してんだ、まだ例の魔物は見つからねぇのかよ

……って、何だこれ?
どういう状況だ?

魔物はいなかったが、別のターゲットを発見した
というところだ

で、全員やられてんのか?ハハッ
しょうがねぇ、仇はとってやるか!

人数だけは多そうね、まったく……!

 

◆ ◆ ◆

 

強ぇな……こいつらが例の?

ああ、エルザーラ側についている、
【主人公】たちだ……

あんた達、何と戦いたいんだ?

いずれは、この“The World”で一番力を持つ傭兵団に
なるって目的はあるからな……

あんた達が強いなら仲間に、弱いなら潰しておく
それだけさ……

あんた達の仲間になりたくなる要素が
何もないわ、帰って?

俺達の強さは、組織力だ!
これからどんどん仲間が増えていくぜ?

(ザザッ)

おい、集まるのはここで良いのか?
急に呼ばれたんだが……

まったく、烏合の衆でも数が多ければ
立派に障害ね……!

 

◆ ◆ ◆

 

もう、いい加減にして欲しいですね……
さすがに疲れました……

おいおいおい、テメェら!
よってたかって襲うなんざ、キタネェじゃねーか!

恥ずかしいマネしてんじゃネェーよ!!

バリゾー、お前ってヤツは……

な、何だよ……そんな目で見るんじゃネェ!
思った事を言っただけだっつーの!

デレバリゾー……悪くないよ……

だから、妙な名前をつけんじゃねぇ!

うっ……ヤベェ、またイラッとしたら……
クラクラしてきやがったぜ

お兄ちゃん……大丈夫、だよ……

お、おう……(キュン)

(ザッ……)

茶番は終わりか?

グル・カーン!

おう、覚えてくれてはいたようだなぁ?

【主人公】や私たちに何の用?
仲間になれって言うのなら、先にお断りだけど

おいおい、少しは交渉させてくれよ!?
まぁ、いい……ククク

また、噂の魔物を倒したそうじゃねぇか
さすがは【主人公】だな?

それ程でもあるけど

なかなか調子に乗ってるようだな……イイぜ?
俺はそういう奴は嫌いじゃないからな

まぁ、本当にいたかどうかは問題じゃない……

暴走している魔物がいたっていう噂が出た……
そいつが重要なんだからな

どういう意味?

ふん、まぁ挨拶代わりに、お前達の強さを
見せてもらおうじゃねぇか……

暴走した魔物とやらの強さを見極めるためにな!

 

◆ ◆ ◆

 

なるほどな……
こいつらじゃ見極めにもならんという事か

もう諦めた方がいいよ

諦める?
そんな必要はまったくないぞ?

もう用はないなら、帰らせてもらうわよ

そうですね……
バリゾーさんも一緒に行きましょう?

え、あ、ああ……

まぁ、そう焦るなよ……
せっかく来たんだ、俺の相手もしてもらうぞ!

 

◆ ◆ ◆

 

くっ……クハハハハハハッ!!

何がおかしい!

いいぜ、【主人公】……!
お前らは本当に使えるヤツだぜ!

その調子でデスイーターも泣き姫も、妙な魔物も
みんなお前らがブッ潰してくれりゃイイ……

はぁ?

だが、その成果だけはこの俺たちが頂いていく
悪いな【主人公】……クックック

何言ってるのか、まったく意味が分からないわ
頭、おかしいんじゃない?

そうかな?

どうやらお前らは、自分達の成果をあまり表に
出したくはないらしい……

だから、代わりに俺達がそれをやった事に
してやろうと言っているのさ

どういうことか分かりませんけど、
そんな無茶なことが出来るはずないです!

そうかな?きっと誰も疑いはしないぜ?

お前達は自分達がやった、と否定したりは
してこなさそうだからなぁ?

ゲスい……
けど、多分そうかもね……

俺は、このグル・カーン傭兵団を強く、巨大にして、
言葉に説得力をつけるだけでイイのさ……!

どうだ、悪くないアイデアだろう?
ハッハッハッハッハ……

なんてセコい野郎だ……

策だと言ってもらえると嬉しいんだがな……ククク

ほう……まるでデスイーターの様な事を
考える奴が居たものだ

誰だ……?

(ズズズズズ……)

だが、それでは【主人公】たちが
あまりにも可哀想だ……そうは思わないか?

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